建築施工管理の納め方、ディティールを学ぶための書籍はたくさんあるのですが
店舗系の施工管理者が読むための書籍は皆無です
これは私が知っている知識をまとめるしかない。ちょっとした使命感でこの記事を作っています
これから店舗の施工管理として頑張る方や
先輩の方々にも共感していただけるのではないでしょうか
今回は、以前書いた「【キホン】逃げ寸法の考え方」で少し触れた実例を、実際に現場で何が起きたのかという時系列で振り返ってみようと思います。知識として「逃げ寸法が大事」と分かっていても、現場ではこういう流れで失敗が起きるんだ、というところまで共有できればと思い、書いてみました。
ご一読いただけると幸いです
開口は巾2000mm、家具も巾2000mmで作ってしまった
什器・造作家具の納まりの話です。
巾2000mmの家具を入れる開口を、そのまま巾2000mmで作ってしまったことがありました。
図面上は「ぴったり」で、特に違和感もなく進んでいました。
逃げという概念が頭から抜けていたというより、
「これくらいなら入るだろう」という甘さがあったのだと思います。
発覚した瞬間
いざ家具を据え付ける段階になって、まったく入らない。
当たり前といえば当たり前なのですが、現場でこれをやってしまうと、
その場の空気が一気に変わります。
搬入の人手も確保していますし、後工程も詰まっている中で「入りません」という事実だけが目の前にある状態です。
その場での対処
結局、開口側を削って逃げを作るしかありませんでした。
すでに仕上がっている壁を削るので、仕上げのやり直しも発生します。
本来であれば不要だった手間が、その場の判断で積み重なっていくのを経験しました。
「今度こそ」で逃げ5mmにしたが、また入らなかった
この経験を踏まえて、次は逃げ5mm(開口2005mm)で作り直したことがありました。
これで安心だと思っていたのですが、結果はまた入らない
正直、一度失敗を経験した上でのことだったので、原因が分かるまでは戸惑いました。
原因は足元のランナー部分
調べていくと、原因は軽鉄下地の足元にありました。
軽鉄壁は中間部で壁厚90mm程度なのですが、
ランナー(床に固定する金物)の部分だけ石膏ボードがしなって膨らみ、足元だけ壁厚が92mm程度になることがあります。
これは別記事「【図面のキホン】軽鉄の幅は92mm」でも解説した現象ですが、
まさにこれが開口の足元で逃げを食ってしまっていました。
つまり、逃げ5mmで作ったつもりが、足元では実質3mm程度しかなかったということです。
一つのつまずきが、その後の工程すべてに響く
本来であれば、その日のうちに据え付けまで終わらせて、
次の日からは周りの造作や仕上げに入っていく段取りでした。
ところが実際には、据え付けだけでその日が終わってしまい、翌日は予定していた仕上げ工程ではなく、削った壁の補修から始めることになりました。
当然、その次に控えていた工程もそのまま後ろ倒しです。
さらに、据え付けを担当してくれた大工にも、翌日予定していた別の作業をリスケしてもらうことになりました。
たった一箇所、逃げ寸法の見落としでつまずいただけなのに、
その影響は自分の作業だけでは収まらず、後工程・他の職人のスケジュールにまで波及していきます。
現場は一つの工程が独立して動いているわけではなく、すべて前の工程の上に積み上がっているのだということを、このとき改めて実感しました。
職人を呼べなくなり、他社に頼み込むことに
さらに厄介だったのが、こちらがリスケしたくても、
次の現場がもう始まってしまっていることでした。
同じ職人に来てもらおうにも、次に空くのは一週間後。
店舗の工期は非常に短いので、一週間待つという選択肢はありません。
結局、無理を言って次の現場の帰りにこちらへ寄ってもらい、仕上げをお願いすることになりました。
一日で終わればまだいいのですが、二日、三日とまたがってしまうと、
その職人にとっての負担は計り知れません。長い一日を何日も続けてもらうことになり、
本当に申し訳ない気持ちでした。
それでもどうしても都合がつかないときは、同じ工種の他社にお願いせざるを得ない場面もありました。
普段であればライバルにあたる同業他社です
すでに下地まで触っている状態の現場に、仕上げだけ別の業者に入ってもらう形になります。
こうなると、下地を見ていない職人は、その後の仕上がりに何か不具合が出ても責任を持ちようがありません。
実際、引き渡し後に「壁が割れてきた」という話が出たとき、
「下地は自分たちがやっていないので分かりません」と言われてしまったこともありました。
原因を辿れば、最初につまずいたのは自分の逃げ寸法の見落としです。
それなのに、現場に関わった人たちの間に気まずい空気が流れてしまう。
誰も悪くないのに、巡り巡って人間関係までぎくしゃくしてしまうのが、
この手のトラブルの一番つらいところだと感じています。
この経験から辿り着いた対策
この経験以降、意識するようになったのは「まずは大きく逃げる」ということです。
逃げを大きくすると隙間も大きくなりますが、その隙間はフィラーやコーキング、
仕上げ材を少しフカすといった対応で十分納められます。
入らないという致命的な失敗に比べれば、はるかに軽い対処で済みますし、
何より現場を止めずに済みます。
ただし、ここで誤解してはいけないのは、
「攻めすぎて入らない→次は〇mm広げてみよう→それでもまだ入らない」と失敗を繰り返すような進め方は論外だということです。
現場は自分たちの修業の場でもありますが、
それ以前に、お客様から大切な店舗を預かっている現場です。
失敗を前提にした調整を重ねること自体が、お客様のことを考えていない進め方になってしまいます。
だからこそ、まずは確実にきれいに納まる逃げ寸法でしっかり完成させる。
そのうえで、現場ごとの経験値を積みながら少しずつ精度を上げていく。
この順番が肝心だと思っています。
「前回はちょっと逃げすぎたから、今回は〇mm攻めてみよう」という調整は、
あくまで確実に納められる範囲の中での話であって、入るか入らないかを賭けるようなことではありません。
実際、今は経験の浅い施工管理者の育成にも携わっていますが、
まずは確実に納まる逃げで失敗しないこと、その上で経験を重ねて精度を上げていくこと、
この順番を徹底してもらっています。
そして何より、自分がこの失敗を経験しているからこそ、次の世代には同じ思いをさせたくないという気持ちが強くあります。
入らない、やり直す、工程が崩れる、関係がぎくしゃくする——
あの辛さは自分たちの代で十分だと思っています。
まとめ
逃げ寸法のミス一つが、自分の手直しだけでは終わらず、後工程、他の職人のスケジュール、
ときには他社との関係にまで波及していく。
そこまで経験して、ようやく「逃げ寸法は数字の問題ではなく、現場全体の段取りの問題なんだ」と実感しました。
だからといって、攻めて失敗を繰り返しながら精度を上げていくようなやり方は許されません。
現場は修業の場であると同時に、失敗が許されない仕事でもあります。
まずはしっかりと、確実にきれいに納めるところから始め、
そのうえで経験を積みながら精度を上げていく。
この順番を間違えないことが、何より大切だと思っています。
小さな寸法の見落としが、思っている以上に多くの人を巻き込んでしまう。
そしてその辛さを知っているからこそ、次の世代の施工管理者には同じ経験をさせたくないと思っています。
そんな辛い思いは、私たちの代だけで十分ではないでしょうか。
これから施工管理をされる方には、ぜひこの重みとそこから抜け出す考え方の両方を知っておいてもらえたらと思い記事にしました
ご一読いただけると幸いです。
私の経験がみなさんの参考になればうれしいです。
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